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1000MHR(Mille Mike Hailwood Replica)


84〜86年式

・モデルの概要・
83年に発表された「新しい」900MHRは、新しいエンジンがファビオ・タリオーニ技師及びそのアシスタントであるマッシモ・ボルティ技師によって開発されている間の「間に合わせ」のモデルであると考えられていた。 83年のカジバ社との提携以前、タリオーニ技師はVMグループからベベル・ギア・エンジン改良の開始許可を得て、最終的に84年中旬には、新しい1000ccエンジンが具体化された。 83年以降の900MHRと、外見上の区別は難しかったが、ミッレ・エンジンの中には多くの重要な改良が行われている。

ミッレ・エンジンは86年前半に製造中止となり、この間、ミッレMHRが1112台、ミッレS2が171台のみ製造されたが、79年の最初の900MHR(200台)を除いて、ミッレMHRは、900MHRよりも少ない数しか製造されていない(84年式662台、85年式200台、86年式250台)。 ミッレは、各年式の900MHRより、多くの点で優れていた。

これらは最も強靱なエンジンを持っていたが、84年式900MHRとは異なり、組み立ての品質が良くなく(工場を出荷されたミッレの多くが、ベベル・ギア・シム及びイグニッション・タイミングの調整が不正確であるという話もある)、ドゥカティ社の未来の不明確さ及びそれに関連する85年のカジバとの合併が、著しく士気に影響を与え、その結果、品質管理の低下を招いたと考えられる。

もし、状況が異なっていたならば、ミッレは全てのベベル・ツイン・エンジン中、最高の性能を発揮するものとして生き延び得たかも知れないが、カジバ社により買収された85年には、素晴らしいベベル・ギア・エンジンの製造は不経済とされ、翌86年にはその終焉を迎えることとなった。

・年式毎の特徴・
・主要諸元・
フレーム形式ZDM1000R
100001〜101112
エンジン形式ZDM1000
100001〜101283
ボア×ストローク88×80mm
総排気量973cc
圧縮比9.3:1
最大出力83PS/7500rpm
90PS/7500rpm
タイヤサイズ 前輪100/90V18
後輪130/90V18
ブレーキ フロント280mmダブルディスク
リア280mmディスク
ホイールベース1499mm
シート高800mm
全長2220mm
全幅699mm
重量198kg
ギア比 一次39/69
二次15/41
タンク容量24L
キャブレターデロルトPHM40BD/BS
総製造台数1112
(84年式662、85年式200、86年式250)
84〜86年式

 ・フレーム等
ミッレMHRのフレームの形状は、最終型の900MHRと同じであったが、新しいフレーム番号シーケンス及びホモロゲーション番号が指定されている。 フレーム形式には「ZDM1000R」が指定されるとともに、フレーム番号は「100001」から開始され、フレーム・ホモロゲーション番号は「DGM 51429 OM」となった。

エンジンは別として、ミッレMHRと最終型900MHRには僅かな違いがある。 900MHRと異なり、カウルの「Mike Hailwood Replica」デカールの下に「Mille」デカールが貼られているが、極初期の少数のミッレMHRは、「Mille」ではなく「1000」デカールが貼られていた。 タンク及びカウルのその他のデカールは、以前と同様であるが、サイド・カバーの「900」デカールは、ミッレMHRでは「DESMO」となっている。 また、シート後部にも「DESMO」デカールが貼られるとともに、シングル・シート・パッドも新しいものが採用されていた。

ほとんどのミッレMHRには、クロムメッキではなくブラックのロック式燃料キャップが装着されている。 これは、900ミッレS2のような、フラッシュ・マウント・タイプではなく、以前の900SSと似た形状である。 フロント・マッドガードの形状は、900MHRと同じであるが、ミッレMHRでは全てレッドにペイントされていた。 その他、カウル及びサイド・カバーのボルトが、ミッレではブラックとなっている。

38mmのマルゾッキ製フロント・フォークも、外見及び長さは900MHRと同じであったが、ミッレMHRでは新しいものが採用されている。 ブレンボ製ブレーキ・キャリパーはフォーク後方にマウントされ、フォーク・レグは当初ブラックにペイントされていたが、後にはミッレS2の製造開始に合わせてレッドとなった。 これに伴い、トリプル・クランプもレッドにペイントされたが、フレーム及び外装のカラーとは一致していない。 全てのミッレMHRのフォーク・トップにはエア・キャップが装着され、これに伴いチューブ長は590mmとなったが、フォークの内部は900MHRから変更はなく、また、全てのフォークの左側フォーク・レグには、イエローの「Marzocchi」デカールが貼られている。 リア・サスペンションはブラックのスプリングを持つ、リザーバー・タンク付きのマルゾッキ製であり、リザーバー・タンクにはホワイトの「Marzocchi」デカールが貼られていた。

最終型900MHRと同様に、ホイールはオスカム製の18インチ・アルミ・ホイールであり、キャッシュ・ドライブ・フランジを持っていた。 ミッレMHRには、径の大きな41歯リア・スプロケットが採用されているが、チェーンが干渉することを避けるため、900MHRとは角度の異なる、ブラックの新しいチェーンガードが装着されている。 全てのフット・コントロールは900MHRと同じであったが、初期のギアシフト及びブレーキ・ラバーに戻されている。

ミッレMHRとミッレS2の部品の多くは共用されるとともに、両方とも製造数は非常に少ない。 ミッレMHRが登場した当初は、長期間の製造を意図していたようであり、85年には、ファクトリーのF2レーサーのように、レッドとイエローのカラーを持つ新しいミッレMHRのプロトタイプが考案されていた。 85年中旬には、更に基本的な部分が変更されたミッレMHRのテストが開始され、これもレッドとイエローのカラーであり、更に16インチのフロント・ホイールや、角形ライト等、750F1のパーツが一部利用されるとともに、フロント・フォークはマルゾッキ製M1Rであった。 85年は、ドゥカティ社がカジバ社に買収された「変動の時期」だったため、このプロトタイプは市販には移されなかった。

85年末、カジバ(及び「象」)ロゴを持つミッレMHRが現れたが、それ以前にCRCのマッシモ・タンブリーニは、ミッレMHRのために、ボックス型アルミ・フレームを設計した。 これはマルゾッキ製M1Rを装着されるとともに、前後16インチ・ホイールとされ、それに伴いリア・サスペンションのレートがアップされていた。 このプロトタイプも市販化されなかったが、フレームは後のパゾのベースとなった。

なお、ミッレMHRの製造ラインは85年に閉鎖され、86年前半に製造された最後の250台のミッレMHRは、85年までに製造されたスペア・パーツから組み立てられている。
 ・エンジン等
ミッレMHRのエンジンは、新しいエンジン形式及び番号シーケンスが付与されていることで、860モデルのエンジンと区別することができる。 エンジン番号は「ZDM1000 100001」から開始され、ミッレS2と共用されている。

クランクケースは新しくされ、大きなねじ込み式オイル・フィルターが採用されるとともに、傍にオイル・プレッシャー・スイッチが設けられている(最終型900MHRのクランクケースは、スイッチのためのキャスティングは備えているが、スイッチ自体は装着されていない)。 ミッレ・エンジンと、スクエア・ケース・エンジンの間のパーツの共有は僅かであり、この最終的な再設計は、74年のスクエア・ケース・エンジンの登場と同様に重要であった。

860エンジンがボアの拡大で達成されたのとは異なり、973ccの排気量は、単にボアを拡大するのみではなく、ストロークの延長と合わせて達成されている。 ボアは僅かに拡大(2mm)されて88mmとなったが、ストロークは80mmまで延長された。 これは、クランクシャフトに大きな変更があったことを意味し、パンタで行われた改良を反映して、シャフトは一体鍛造になるとともに、ビッグ・エンド・ベアリングには2分割されるプレーン・メタルが採用されている。 なお、遠心式スラッジ・トラップは残されていた。 ストロークが5.6mm延長されたにも関わらず、コンロッド長は145mmから変更なく、コンロッド/ストローク比は更に下げられた(1.81:1)。 結果として中間域の出力が増大されたが、これは本来「エンジンの高さを変えない」ために行われたものである。 エンジンの高さは変更されなかったが、大きなエンジンに対処するため、ミッレMHRには新しく、長いスレッドを持つ強靱なエンジン・ボルトが採用されている。

コンロッドが2ピースのプレーン・メタル・ベアリングとなったので、剛性の向上に対応して、クランクシャフト・ジャーナルのサイズは45mmに拡大されている。 もし、ドゥカティ社がもっと早くベベル・ギア・エンジンにミッレMHRのクランクを採用していたならば、ベベル・ギア・エンジンはもっと長く製造されていたかも知れない。 パンタと同様に、ミッレMHRのクランクシャフトは丈夫であり、ベベル・ギア・エンジンのネックとなっていたビッグ・エンドのトラブルは解消されている。 メイン・ベアリング・ハウジングのファイバー・ケージ・ボール・ベアリングには変更はなく、これらは750GT以来、全てのベベル・ツインに採用されている。

最終型の900MHRと同じく、シリンダーとピストンは3種類のセットになり、シリンダー内壁にはニカジル・メッキが施されている。 シリンダーのサイズは「A:88.000−88.010」、「B:88.010−88.020」及び「C:88.020−88.030」であり、それに対応するピストンは、900MHRよりもややルーズ・フィットで「A:87.960−87.970」、「B:87.970−87.980」及び「C:87.980−87.990」である。 83〜84年式900MHRと同様に、これらはセットで交換する必要があった。

83年の900MHRでは、プライマリ・ドライブ及びクラッチに大規模な改良が行われたが、ミッレMHRでは更に徹底して行われている。 74年式750SS以来、ドゥカティの量産ツイン・モデルでは初めて一次減速比が「32/70」ではなく、「39/69(1.769:1)」となり、クラッチの速度が速められている。 油圧式の乾式クラッチは、新しい外側のプレッシャー・ディスク及びスプリングを除いて、大きな変更はない。 スプリングは、以前よりも2mm短く、40mmである。 83年後半、ドゥカティ社が乾式クラッチ・エンジンに対するドリブン・プレートの追加に関する技術広報を発したにも関わらず、ミッレMHRでは7枚のドライビング・ディスク及び6枚のドリブン・ディスクのみである。

エンジン番号「100129」以降、フロント・シリンダーにはオイル・フロー・レデューシング・プラグが装着されるようになり、エンジン番号「100388」からは、ミッレMHRのエンジンにはボディーが大きく、オイル吐出量が増加された新しいオイル・ポンプが使用されるようになった(新しいオイル・ポンプ・ドライブ・ギア及びタイミング・ギア・ベアリング・サポート・プレートを含む)。 オイル・ポンプのボディーが広くなったので、オイル・ポンプはセントラル・クランクシャフト・ギアで直接駆動されるようになった。 またミッレMHRでは、フル・フロー式オイル・システムが採用され、大きくなったオイル・フィルター傍の右側クランクケースの中に、プレッシャー・リリーフ・バルブ及びスプリングが取り付けられている。 なお、ベベル・ツインには、最後まで右側クランクケースにねじ込まれたブリーザーが採用されている。

ギア・セレクター・メカニズムにおいても、ミッレMHRでは新しいシフト・フォークが採用されている。 最終型900MHRまでは750GTから変更されていないが、ミッレMHRではギアボックスが完全に新しくされたためにシフト・フォークの変更が必要になった。 また、左側クランクケース後方のセレクター・ドラム・ペグも変更されている。

ミッレMHRでは、ギア及びシャフトの多くが改良され、プライマリー及びセカンダリー・シャフトのギア比はクロス化された(クラッチは3ドッグ・タイプである)。 また、左側エンジンケースには、新しいセカンダリー・シャフト・ベアリングが採用されている。 これらのギアボックスは、ドゥカティ社の品質向上を示すとともに、以前のギアボックスからは大幅に改良されていたが、組み立て品質はあまり良くなかった。 以前のギアボックスと同じものは、セカンダリー・シャフトの5速(22歯)ギアのみである。 1速ギアのギア比はかなり上げられて1:2.720、2速ギアも1:1.761、3速ギアは1:1.250である。 4速ギアはダイレクト・ドライブ(1:1)であり、5速ギアは1:0.887に減少されている。 エンジン/ホイール比を900MHRと同様にするため、41歯のリア・ホイール・スプロケット及び15歯のエンジン・スプロケットを使用して、ファイナル・ドライブ・ギア比を下げている。

カムシャフト・ドライブ及びデスモドローミック・カムシャフトは、900MHRから変更はなく、基本的なシリンダー・ヘッドであり、パンタでは60度のバルブ・アングルが採用されていたが、ミッレMHRでは80度のままである。 また、排気量の増加に対応して、750GT以来初めて、大きなインレット・バルブ(42mm)が採用されている。 エキゾースト・バルブは36mmのままであったが、新しいパーツ番号が付与されるとともに、新しい鋳鉄バルブ・シールが採用されている。

キャブレターは最終型900MHRと同じく、メタル製ハウジングに2つのペーパー製エア・フィルターを持つ、デロルト製PHM40BD/BSである。 900MHRと同じく、ハウジングは初期はレッドにペイントされていたが、後にブラックとなった。 キャブレターのジェッティングは900MHRと同じであったが、ミッレMHRとはあまり相性が良くなかった(900MHRでは問題はなかったが、ミッレMHRではパーシャル・スロットルがばらつく傾向が見られる)。

サイレンチウム製マフラーのみがミッレMHRのパーツ・リストに掲載されたが、コンチ製2in1システムをボルト・オンで装着することが可能である。 公式には示されていないが、パンフレットでは2in1システム及びショート・ベロシティ・スタックを使用すると、90Hp/7500rpmの出力を発揮するとされている。 サイレンサー・ホモロゲーション・プレートは、右側サイド・カバーの下に取り付けられていたが、番号が新しくなり「E3 41R 0040605」及び「E3 13R 0440604」の2つが指定されている。
 ・電装等
900MHRに採用された0.7kwの日本電装製エレクトリック・スタート・モーターがそのまま使用されたが、ミッレMHRでは新しいドライブシャフト・ギア及びドライブ・ピニオンが採用され、ドライブ・レシオが下げられている。 タリオーニ及びボルティー両技師が、小さなモーターで排気量の大きなエンジンを始動することが困難であることを見越していたことは明らかであるが、この「低い」ギア比でさえ、エンジンを回転させることが困難であった。 オイル及びプレーン・ベアリングの抵抗により、ミッレMHRのエンジンは特にスターターが重く、これは新しいエンジンの最も重大な問題でもあった。

スターター・モーターは、変更されたサイド・カバー・ベアリング及びキャップを使用していたので、インナー・サイド・カバーは最終型の900MHRとは互換性がない。 ボッシュ製のイグニッションは900MHRと同様であるが、新しいイグニッション・ピックアップ・プレートが採用され、最終的にはオルタネータのためのサイド・カバー・プラグ及びイグニッション・ワイヤーは全てメタル製となった。






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