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860GT/GTE(Gran Turismo/Electronica)


共通仕様74年式75年式76年式

・モデルの概要・
1973年、環境保護への関心が高まりつつあったことを受けて各種の規制が強化され、71年から製造が続けられていた750GTは、この各種規制に対応することが困難であった。 特に音量規制はコンチ・マフラー仕様の終焉を意味するとともに、吸排気に関する規制は、既に「控えめな」性能であった750GTに対し、エンジン・ボアの拡大以外に性能向上の術がないことを示していた。

米国を主要市場と捉えたドゥカティ社は、73年のミラノ・ショウにおいて、750GTの排気量を863ccに拡大するとともに、デザインをイタル・デザインを主催するJ.ジウジアーロに依頼し、完全に新設計された860GTのプロトタイプを発表した。

このプロトタイプ・モデルを見ると、J.ジウジアーロが750GTの「何を」ベースにデザインしたのかイメージすることは難しく、750GTの「進化」とはとうてい信じられないものである。 ジウジアーロは多くの工業デザインに成功しているが、直線を基調とした860GTのデザインはとても成功したものであるとは言えず、評価の低いものであった。

エンジンは構造的な設計変更を受け、製造が容易でコストがかからず、更に信頼性及び整備性の向上が図られたが、EFIMによる73年のドゥカティ社の人事変更を受け、新たにディレクターとなったデ・エッカー技師は、タリオーニ技師に対して「エンジン・ケースをジウジアーロ・デザインに併せて変更する」よう指示した。 タリオーニ技師は、この変更を望まなかったと言われるが、所謂「スクエア・ケース・エンジン」は、860GTの製造中止後も長く製造され続けた。

860GTの「DUCATI」ロゴも、ジウジアーロ・デザインの影響を受けたものであるが、これは外装のみならずエンジンの刻印にも及んでいた。 このロゴは、85年にドゥカティ社がカジバ社に買収されるまでの間、全てのベベル系ドゥカティに採用された。

860GTは74年9月から製造が開始され、860GTのエレクトリック・スタート・モデルである860GTEは、それより少し遅れて12月から製造が開始されている。 あるデータでは、860GT(860GTL及び860Mk3を含む)の総製造台数は1821台、860GTEの総製造台数は1166台となっている。

・年式毎の特徴・
共通仕様

 ・フレーム等
スクエア・ケース・エンジンへの変更に伴い、860GT(E)のフレームは完全に新設計とされ、フレーム形式も新しく「DM860S」が指定された。 フレーム番号のシーケンスも同様に「850001」から開始され、新しいフレーム・ホモロゲーション番号「DGM 13715 OM」とともに、750GTと同じくステアリング・ヘッドに刻印されている。

フレームはブラックにペイントされ、750GTよりも細身のタンク及びシートに適合するよう、シートの最も広い部分で216mm(ナロー・フレームと同じ)となるとともに、リア・サブ・フレームの後端は、シート形状に合わせて上方に「跳ね上がったように」延長されている。 また、フレームの全長は短く(1616mm)なり、スイング・アームにはシーリー・タイプではなく、エキセントリック・チェーン・アジャスターが採用されている。 このスイング・アームには、750GTで不評であった「規格外の」6mmグリス・ニップルが引き続き採用されていた。 フロント・ダウン・チューブは、エンジン・マウント部付近で「くの字」型に曲がった形状となり、更にダウン・チューブとトップ・チューブの間に「湾曲したパイプ」で補強が入れられている。 また、フロント・ダウン・チューブのエンジン・マウント・ボルト・タブは、筒状から板状に変更されるとともに、ステアリング・ヘッドのアングルも31度に増大された。

全ての860GT(E)には、セリアーニ製の38mmフロント・フォークが採用されており、これらのフォーク・レグは最終型の750GTと同様にポリッシュされたアルミ製であったが、フォーク・チューブは28mm延長され、608mmとなっていた。 フォーク・チューブの延長に伴い、フォーク・スプリングも525mmに延長されている。 右側のフォーク・レグにはブラックの「Ceriani」デカールが貼られ、上部及び下部トリプル・クランプはブラックにペイントされるとともに、750GT同様にブラックにペイントされたスチール製のヘッド・ランプ・ブラケットが装着されている。

リア・サスペンションは、マルゾッキ製のものであり、外観は最終型750GT同様に、ブラックにペイントされたカバーとクロム・メッキされたスプリングを持っていたが、全長は320mmに延長されている。 カバーにはレッドの「Marzocchi」デカールが貼られていた。

フロント・ブレーキは、パッド上にプラスチック製カバーが被せられたブレンボ製「P2F08N」キャリパーが採用され、フォーク前方に取り付けられていた。 マスター・シリンダーは、クリアのフルード・リザーバーを持たないタイプで、15.8mmのピストンが採用されている。 ブレーキ・ホースはラバー製であり、ブレーキ・ライト・プレッシャー・スイッチが取り付けられたロア・トリプル・クランプのジャンクションを介して接続されている。 フロント・ディスクは「穴開け加工」のない280mm径のものであり、中央がブラックにペイントされていた(ブレンボ製キャリパーを採用した最終型750GTと同じ)。 なお、パーツ・リストには掲載されていなかったが、オプションとしてダブル・ディスクが用意されていた。 また、ブレーキ及びクラッチ・レバーは、ポリッシュされたアルミ製のものである。

リア・ブレーキは、750GTと同様に200mmシングル・リーディング・シューのドラム・ブレーキであり、 350mmの長いブレーキ・ロッドを介してスイング・アームに取り付けられている。 フット・ブレーキ・レバーにはラバー製のパッドが装着されていた。 また、ホイールは前後ともラダエッリ製のスチール製リムを採用しており、スポークの数は40本であるが、スイング・アームの仕様及びドラム・ブレーキの取り付け方法が異なるため、スポーク穴の角度が異なっている。

新しくデザインされた18L容量のタンクは、750GTと同じ方法で装着され、各サイドにはプラスチック製の「DUCATI」バッジ(ジウジアーロ・ロゴ)が取り付けられるとともに、燃料ホースはグリーンのプラスチック製で あった。 また、シートは新しい形状となり、後方にジウジアーロ・デザインの「DUCATI」レタリングが入れられ、シート中央にはストラップが設けられている。 サイド・カバーは完全に新しいデザインとされ、4本のM6×42mmスクリューでフレームに取り付けられるとともに、プラスチック製の「860」バッジが装着されている。

ステップは、750GT同様のラバーが装着されたものであるが、フレームの変更に伴い、取り付け位置が前上方に移動されている。 なお、タンデム・ステップは750GT同様である。 チェーン・ガードは、750GTに採用されていたステンレス・スチール製ではなく、ブラックにペイントされたスチール製のものが採用されていた。
 ・エンジン等
860GT(E)のエンジン番号は、「DM860 850001」からシーケンスが開始され、750モデルとは逆に、「DM860」の刻印はクランク・ケース右側にある。 サイレンサー・ホモロゲーション番号は、新しく「DM860S E3 9R−13716」が指定され、ホモロゲーション・プレートは、後期の750GTと同様にエンジンの上に取り付けられている。 スクエア・ケースのエンジンには、ラウンド・ケースで適用されていたクランク・ケース・アッセンブリ番号が示されていない。

スクエア・ケース・エンジンは、形状以外にもラウンド・ケース・エンジンから多くの設計変更を受けており、ラウンド・ケース・エンジンと互換性のある部品は、ギア・ボックス及び僅かなエンジン内部パーツのみである。

最も大きな変更は、ベベル・ギアのレイアウトである。 ラウンド・ケース・エンジンでは、クランク・シャフトから直接ベベル・ギアが駆動されていたが、スクエア・ケース・ エンジンでは、張り出したプレートの上に取り付けられた、2つのスプール・ギアによってストレート・カット・ギアを駆動することにより、ベベル・ギアを固定したままでシャフトを動かしている。 また、クランク・シャフト・エンドの摩耗を低減するため、ラウンド・ケースとは異なるエンド・プレイが採用されているが、カム・シャフト・タイミングには影響はない。 ロア・カム・シャフト・ベベル・ギアは、4本のM6×20mmスクリューを使用するリテーニング・フランジを採用しており、ベベル・ギア・ベアリングは取り外しに特殊工具が必要なスチール製のハウジング内ではなく、このハウジング内に位置しているため、クリアランスを簡単に調整することができる。

その他、スクエア・ケース・エンジンへの再設計時、オイル・ポンプ・ドライブ・ギアはクランク・シャフトの一部ではなく、クランク・シャフト・タイミング・ギアで駆動されるスプール・ギアとなるとともに、新しいベベル・ギア・ドライブは、セントラル・ギアを必要としない仕様となった。 このため、クランク・ケース内に余裕ができ、オイル・フィルターを装着することができるようになった(ドレン・ボルトに取り付けられたプラスチック・ケージ製のストレーナー及びクランク・ウェブ上の遠心式オイル・スラッジ・トラップは、引き続き採用されている)。 しかし、このオイル・フィルターはバイパス・タイプであり、リア・シリンダー・ヘッドの少量のオイルを濾過するのみであったため、その効果は疑問である。 また、オイル・フィルターにはブラックのスチール製カバーが被せられるとともに、Oリングでシールされているが、カバーを強く締め込んだ場合にOリングがねじ切れ、しばしばオイル・リークを引き起こした。 オイル・ポンプもオイル・フローを増大するために再設計されたが、ギアに変更はない(11歯×2)。

スクエア・ケース・エンジンのクランク・ケースはダイキャスト製であり、ラウンド・ケース・エンジンよりも軽く、また、キャスティングは表面が平滑なものとなり、多くのラウンド・ケース・エンジンで問題があった「巣穴」等が少なくなっている。 クランク・ケース自体は軽くなったが、スクエア・ケース・エンジンは、カム・シャフト・ドライブ・アセンブリに改良されたギアを装着するとともに、クランク・シャフト・エンドに出力の大きなオルタネータを取り付けるため、幅及び重量が増大している。

エンジンの長さをわずかに短くするため、コンロッドの長さは5mm短くなり、145mmとなっている。 しかし、ストロークは750ccモデルと同じく74.4mmであり、ロッド/ストローク比は1.95:1となった。 短くなったコンロッドは、中間域のパワーをわずかに増加させたが、ピストン・アクセラレーションには影響はなかった。 クランク・ピン及びビッグ・エンド・ベアリングは、ラウンド・ケース・エンジンと同じであるが、リスト・ピンは径の小さなもの(20×59mm)となり、ピストンの往復質量の低減に貢献している。 860ccエンジンは、86mmのボルゴ製ピストンを使用し、750ccからボアを6mm拡大している。 このピストンは、3本のピストン・リングを使用しているが、形状は750Sに採用されたモンディアル製のスリッパー・タイプのものに似ていた。 ボアの拡大に伴い、圧縮比は9:1に高められている。

大径ピストンに適合するためにスキッシュ・バンドが変更された以外、バルブ・サイズ(インレット40mm、エキゾースト36mm)及びシリンダー・ヘッドは、750ccエンジンから変更されていない。 860GT(E)のカム・シャフトは新しくなり、750GTとはタイミング及びプロファイルが異なっている。 タイミング・フィギュアはより穏やかになり、排気音を低減するためにデュレーション及びオーバー・ラップが少なくなるとともに、これを補うためにバルブ・リフト量が増大されている。 新しいカム・シャフト・ドライブの採用に伴い、カム・シャフト・キーの位置が変更されたため、750ccエンジンと860ccエンジンの間にカム・シャフトの互換性はない。 整備性向上のため、最終型の750GTにスクリュー及びロック・ナット方式のバルブ調整機構が採用されたことに伴い、860GT(E)にも同じシステムが採用されている。

860GT(E)においては、左側カム・シャフト・ベアリング・サポート・ハウジングの形状が長方形になったことに伴い、四角いエンジン・カバーが使用されるとともに「860」の数字が鋳込まれている。 シリンダー・ヘッドは、Oリングによってシールされているが、2つのOリングのうち、小さい方はラウンド・ケース・エンジンから変更されている(パーツ番号は同一)。

プライマリー・ギアは「クランク・シャフト・プライマリー・ギア」方式となり、ドゥカティ・エレクトロニカ社製エレクトロニック・イグニッション・マグネットと一体となった新しいフライ・ホイール上にボルト留めされている。 一次減速比は32/70であり、後期の750ccエンジンと同じである。 イグニッション・スターターは、750ccエンジン同様、フライ・ホイール内側のクランク・ケース内にボルト留めされているが、750ccのものより軽い仕様となっている。

クラッチの外部プレッシャー・プレートは新しくなったが、6本のクラッチ・スプリングは750ccモデルから変更はない。 クラッチの駆動システムは、メイン・シャフトを通して駆動されていることが750ccモデルとの違いであるが、スクエア・ケース・エンジンの幅は広いため、2本のロッドの長さは113.5mmに延長されている。

キャブレターは750Sと同じく、デロルト製PHF32AD/ASが採用されているが、750Sとは異なり、リア・シリンダーのマニホールドは、フロントのものと異なっている。 860GT(E)のエア・フィルター・システムは、短いフレキシブル・ホースを介して2つのメタル製フィルター・ボックスを使用するタイプであり、750GTより優れたシステムであった。

860GT(E)のエキゾースト・システムは完全に新しいものとなっている。 初期のモデルのヘッダー・パイプは1重構造であったが、860GT(E)の角張ったラインにマッチするスタイルのラフランコーニ製サイレンサーが取り付けられており、このマフラーは大変静かであった。 750ccモデルのコンチ製マフラーと異なり、これらは取り外し可能なブラケットを持っていた。

米国の規定を受けて、ギア・シフトはエンジンの左側に移されているが、これはセレクター・メカニズムを移動したものではなく、メカニズムはラウンド・ケース・エンジン同様、右側サイド・カバー内に設けられたままであった。 左シフトへは、2つのレバー及びエンジン後方に設けられたロッドを介して実現されたが、リンケージを介することにより、良好だったラウンド・ケース・エンジンのシフト・フィーリングは失われている。
 ・電装等
860のイグニッション・システムは、ドゥカティ・エレクトロニカ製であり、750ccモデルに採用されたものと同じである。 このシステムには問題が多く、しばしば故障を引き起こしている。 スターターは左側クランク・ケース内のメイン・ベアリング付近に直接取り付けられたため、故障の影響を受けやすかった。 また、進角特性が不適切(1700±300rpmで、28±2度の最大進角を与える)であり、この結果としてビッグ・エンドのトラブルを誘発し、860GT(E)の信頼性低下の一因となっている。

2つのイグニッション・コイルは、タンク下に設けられ、新しいブラックのプラグ・コードが使用されていたが、プラグ・キャップはラバーのKLG製のままであった。 標準で使用されていたスパーク・プラグは、750GTのものより高熱価であった。

860GT(E)では、ラウンド・ケースの弱点であった箇所及び米国レギュレーションに適合するように、電装系等に大きな変更が加えられ、スイッチ類及び電装品等については完全に新しくなっている。 新しいCEV製の左側スイッチ・ブロックには、クラッチ・レバー及びチョーク・システムが取り込まれ、クラッチのアジャスターは750ccモデル及び900SSのスタイルとは異なり、ラバー製のカバーに覆われた黒いギザギザのある仕様であった。 また、左側のスイッチ等は、米国仕様及び欧州仕様の間で異なる。 右側のスイッチ・ブロックは、米国及び欧州仕様とも共通である。

ターン・シグナル・インジケータは、860GT(E)では標準装備されており、750GTの米国仕様に採用されたようなアプリリア製のラウンド・タイプ及び新しく設計されたスクエア・タイプの両方が存在する。 また、ヘッド・ランプについても、米国及び欧州で2つの仕様がある。 米国仕様では、同じ仕様の750GTと同じく、シールド・ビームのヘッド・ライト(パーキング・ライトはなし)が採用されたが、ヘッド・ライト・リム及び取り付け方法は750GTとは異なっており、ヘッド・ランプ・シェルはブラックにペイントされていた。 欧州仕様の860GT(E)では、750S750SSに採用されたものと同じ、アプリリア製「JOD」ハロゲン・ヘッド・ランプが採用されており、これにはパーキング・ライトが装備されている。 どちらの仕様にも、ヘッド・ランプ・シェル内にはヘッド・ランプ・リレー、フラッシャー・ユニット、エンジン・ストップ・リレー及び2トーン・ホーン・デバイスが内蔵されている。

メーター・パネルも新しいものとされ、スミス製のメーターが採用されている(750GTと同じものである)。 スピード・メーターは左側、タコ・メーターは右側にセットされているが、スピード・メーターの下部には、メーター・パネルを通してトリップ・リセット・ノブが突き出している。 メーターの間には、レッドのジェネレータ・ランプ、ホワイトのライト、ブルーのハイ・ビーム、イエローのターン・インジケータ及びグリーンのニュートラル・インジケータの5つのワーニング・ランプが設けられており、ワーニング・ランプの右下には、2ボリューム・ホーンの切り替えスイッチが取り付けられていた。 ベッリ製の「モデル90タイプB」2ボリューム・ホーンは、750GTと同じくタンク下に取り付けられている。

イグニッション・スイッチは、「オン・オフ・パーキング」の3ポジションであり、左側のタンク下に取り付けられた。 また、860GT(E)には、5本ヒューズ仕様のアプリリア製ヒューズ・ボックスが採用されるとともに、左側シフトへの変更に併せて、ニュートラル・インジケーター・スイッチが、セレクター・ボックス後方に設けられている。
・主要諸元・
フレーム形式DM860S
850001〜851344
エンジン形式DM860
850001〜851344
ボア×ストローク86×74.4mm
総排気量864cc
圧縮比9.0:1
最大出力57PS/7200rpm
タイヤサイズ 前輪3.50H18
後輪4.00H18
ブレーキ フロント280mmディスク
リア200mmドラム
ホイールベース1519mm
シート高800mm
全長2200mm
全幅899mm
重量206kg(GT)
217kg(GTE)
ギア比 一次32/70
二次16/40
タンク容量18L
キャブレターデロルトPHF32AD/AS
総製造台数1344(内GTEは327)
74年式

 ・フレーム等
74年式860GT(E)では米国規定に従い、単にフット・ブレーキ・レバーをスイング・アーム下部のロッドを通じて右側に移動した(ブレーキ・ライト・スイッチは、左側のケーブルに取り付けられたままである)ため、ブレーキ・ レバーがエキゾースト・パイプに接近するとともに、グランド・クリアランスの低下を招いている。 この問題は、75年に対処された。
 ・エンジン等
この年式初期のクラッチ・ハウジングとインナー・ドラムの間には、1.5mmのスペーサーが取り付けられている。 最終型の750ccモデルと同様、クラッチ・ドラムには25×47×12mmの2つのベアリングが使用されているが、クラッチ・プレートが変更されている。 最も手前のフリクション・プレートは内向きに曲がったタグを持っており、真っ直ぐなタグを持つ7枚の薄いフリクション・プレートと合わせられている。 一番奥のスチール製ドライビング・プレートは、外向きに曲がったタグを持っており、残り7枚のドライビング・プレートは、真っ直ぐなタグを持っている。

エンジン番号「851194」から、クラッチに2つの変更が行われている。 スチール製インナー及びアウター・ドラム、ベアリング、駆動メカニズムには変更がないが、クラッチ・スプリングの下部にあった6本の8.4×1.6mmワッシャー並びに、クラッチ・ハウジングとクラッチ・ドラムの間に取り付けられていた1.5mmワッシャーが省略されている。 曲がったタグを持つフリクション・プレートは、初期型と同じであるが、その他の7枚のフリクション・プレートは、750ccモデルのものが採用されている。 同じく曲がったタグを持つ、最も奧のドライビング・プレートは外側に移動され、タグは内側に向けられた。 これにより、クラッチ・ドラム・ベアリングのセットアップは、初期の750GTと同じになった。 エンジン番号「851193」から、クラッチ・ドラム・ベアリングは、25×47×12mm及び25×52×15mmの2つのベアリングが同じサイズのものとなった。 初期の750GTと異なり、クラッチ・ハウジングの下には25.5×36×2.7mmのスペーサーが入れられている。

74年式860GT(E)のフライ・ホイールは、トラブル・フリーのシステムではなく、ギアに対して悪影響を与えていたため、75年には改良を受けている。 また、この年式の860GT(E)には16歯のカウンター・シャフト及び40歯のリア・スプロケットが使用されている。

キャブレターはデロルト製であるが、初期型のデロルトの特徴であるポリッシュされたフロートと、アルミ製のフューエル・ジャンクション・バンジョーを持っていた。
 ・電装等
860GTEには、1.2馬力のマレリ製エレクトリック・モーターを使用するため、ユアサ製の大きな「B68−12 36Ah」バッテリーが採用されている。 この年式の860GTEは、スターター・スイッチが「焼き切れ」たり、コールド・スタートの始動性が悪いというトラブルがあったが、75年には対処されている。 このトラブルはドゥカティ社も承知しており、このためこの年式のモデルの多くはキック・スタート・モデル(860GT)である。
・主要諸元・
フレーム形式DM860S
851345〜853231付近
エンジン形式DM860
851345〜853231付近
ボア×ストローク86×74.4mm
総排気量864cc
圧縮比9.0:1
最大出力57PS/7200rpm
タイヤサイズ 前輪3.50H18
後輪4.00H18
ブレーキ フロント280mmディスク
リア200mmドラム
ホイールベース1519mm
シート高800mm
全長2200mm
全幅899mm
重量206kg(GT)
217kg(GTE)
ギア比 一次32/70
二次15/40
タンク容量18L
キャブレターデロルトPHF32AD/AS
総製造台数1316(内GTEは839)
75年式

 ・フレーム等
リア・ブレーキに関するグランド・クリアランスの問題は、シャフトが延長され、短い交差シャフトを使用することにより対策が行われている。

860GT(E)のシートについては、75年に低いシートの500GTL(パラレル・ツイン)が製造されたことを受けて、500GTL用のシートがオプションとして設定されたが、このシートは全長が短かったため、結果としてシート後端のレールをつかみやすくなり、タンデム時のグラブ・バーとしての役割を果たすことができるようになった。
 ・エンジン等
前年式の860GT(E)のトラブル等に対処するため、この年式においては、エンジン、電装及び走行器材類の仕様に多くの変更を受けている。

前年式のエンジン番号「851194」から行われたクラッチの変更は、信頼性等において成功したとは言えず、この年式のエンジン番号「852178」からは元(前年式初期と同様)に戻されている。

74年式のエキセントリック・チェーン・アジャスターと16歯カウンター・スプロケットの組み合わせは、チェーン調整によりスイング・アーム・ピボットの高さに影響を与え、チェーン及びエンジンの間のクリアランスが狭くなる問題を抱えていたが、この問題に対処するためカウンター・スプロケットは15歯に変更されている。
 ・電装等
860GT(E)の最も大きな仕様変更は、電装関係であり、エンジン番号「851684」から行われている。 3線式の150Wオルタネータは、2線式の200Wのものに変更され、クランク・シャフトの右側に取り付けられた。 200Wのオルタネータは、39mmのスターターを持つとともに、4000回転以下からでも充電が可能である。 ラウンド・ケース・モデルに採用された2ダイオード12Aタイプのレギュレータも、新しく4ダイオード18Aタイプのものに変更され、信頼性向上が図られている。

初期の860GT(E)では、雨中を走行すると、イグニッションが停止するという問題を抱えていた。 前年式のイグニッション・ストップ・リレーはヘッドライト・シェルに位置しており、トランスデューサからの2本のグリーンのケーブルでグランドされていた。 エンジン番号「851684」から、新しいタイプのイグニッション・ストップ・リレーが採用されている。 この変更は、ウェット・ランニングの問題の解決に成功し、以後のスクエア・ケース・モデルでは、このイグニッション・ストップ・リレーが採用されている。

前年式の860GTEでは、ハンドルに取り付けられているスタート・スイッチの酸化によりスパークが発生し、スイッチが焼き切れるトラブルがあったが、75年9月から新しいスターター・リレーが取り付けられ、このトラブルに対処している。 スターター・リレーはシート下に、ヒューズ・ボックス及びレギュレータと並んで取り付けられている。

75年式の初期には、スクエア・タイプのアプリリア製ターン・インジケータは、米国仕様に取り付けられたラウンド・タイプのものが標準となった。 また、ベリア製のメーターは、パーツ・リストには掲載されていたが、860GT(E)にはほとんど取り付けられず、多くはスミス製のメーターを採用していた。
・主要諸元・
フレーム形式DM860S
853232付近〜854069付近
エンジン形式DM860
853232付近〜854069付近
ボア×ストローク86×74.4mm
総排気量864cc
圧縮比9.0:1
最大出力57PS/7200rpm
タイヤサイズ 前輪3.50H18
後輪4.00H18
ブレーキ フロント280mmディスク
リア200mmドラム
ホイールベース1519mm
シート高800mm
全長2200mm
全幅899mm
重量206kg(GT)
217kg(GTE)
ギア比 一次32/70
二次15/40
タンク容量18L
キャブレターデロルトPHF32AD/AS
総製造台数327(GTL及びMk3を含む)
76年式

 ・フレーム等
860GT(E)は、76年まで製造されたが、前年式から変更はない。 同時に製造されている860GTSへの移行及び米国市場における不評のため、製造台数は少数であると見込まれる。 エンジンは860GT(E)及び860GTSともに同じもの(エンジン番号も同じシーケンス)が使用されたが、76年の終わりには860GT(E)は製造中止となった。

在庫となった860GT(E)は、77年に860GTSのタンクを装着し、「860GTL」または「860Mk3」の名前が与えられ、格安で販売された。
 ・エンジン等
エンジン番号「853787」から、シリンダー・ヘッドにいくつかの変更が行われている。 この理由は、750GT及び750Sから続いているシングル・バルブ・スプリングに対し、補助用のインナー・スプリングを追加するためである。

新しいバルブ・スプリングの採用に伴い、タイミングの変更された新しいカム・シャフトが採用されたが、860GT(E)が抱えていた「バルブ・ガイドの早期劣化」の問題を解決することはできず、むしろ、インレット・バルブのリフト量が増大したことに伴い、ロッカー・ピン及びブッシュにまでこの問題が拡大している。 インナー・バルブ・スプリングは取り外すことができるが、その場合、新しいカム・シャフトとのマッチングが不良となる。

新しいカム・シャフトの採用に伴い、四角いカム・シャフト・ベアリング・ハウジングから「860」の鋳込みがなくなった(ただし、パーツ番号は以前と同様)。 エンジン番号「853788」から、左側クランク・ケースが改修され、スターター・イグニッション・ケーブルに30mmのロック・リングが取り付けられ、更にエンジン番号「853918」からは、新しいカム・シャフト・ドライブ・ベアリングが採用され、それに伴いサポート・プレートも変更を受けている。

デロルト製PHF32キャブレターに変更はないが、燃料ホースはクリアのプラスチック製パイプに変更されるとともに、キック・スタート・シャフト・ギアが変更され、35歯から36歯となった。
 ・電装等
この年式の860GTEでは、エンジン番号「853788付近」から、マレリ製のMT65/B−08/12/Sエレクトリック・スターター・モーターが採用されたほか、前年式から変更はない。






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