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900MHR(Mike Hailwood Replica)


共通仕様79〜80年式81〜82年式83〜84年式

・モデルの概要・
74年の750SS「イモラ」レプリカは、極少数しか製造されなかったが、それはドゥカティ社にレーサー・レプリカ市場の成功が、全てのモデルの販売促進に繋がることを示した。 伝説的なライダー、マイク・ヘイルウッドが引退から復帰し、78年のマン島フォーミュラ・ワン・レースに英国のSMC(スポーツ・モーター・サイクルズ)がチューンしたNCRドゥカティで出場し、大方の予想に反して優勝したことは、ドゥカティ社にとって、72年のイモラ200マイル・レース以来、最も重要な勝利であった。

この優勝を記念して翌79年、ドゥカティ社はロンドン・ショウに、マイク・ヘイルウッドがライディングしたレーサーのレプリカ・モデルを展示した。 もっとも、74年の750SSとは異なり、MHRでは「レプリカ」という用語は、「広い意味」で使用され、79年のMHRに関する最初の資料では、ドゥカティ社は「際立ったところのない」仕様に対する弁解を行っている。

「新しく設計できないのではなく、例えファクトリーがTTマシンの完全なリプロダクションを行ったとしても、英国のオフィシャルによって課せられたレギュレーションには従わなければならない・・・」(79年、TTのレギュレーションの変更により、量産モデルのクランクケースの使用が要求されたため、特製のNCRレーサーをレースに使用することができず、79年のフォーミュラ・ワン・レーサーは「スクエア・ケース」エンジンを使用しており、マイク・ヘイルウッドはこの年のレースで苦戦することとなった。)

79年フォーミュラ・ワン・レーサーのエンジン等は、これらのレギュレーションのため、900SSと同じであり、MHRは本質的に900SSの外装を変更したものである。 ブラック/ゴールドの900SSと同じく、MHRが最初に発表されたとき、主として英国市場を意図していた。

79年のショウ・モデルは、側面のホワイト・ストライプ上部に大きな「Mike Hailwood Replica」のレタリングを持つワンピースのカウルが装着され、900SS用のスチール製タンクの上から、ファイバーグラス製のカバーが取り付けられていた。 元々、ドゥカティ社はMHRに、燃料残量確認のためのクリア・ストライプを持つファイバーグラス製タンクを装着して販売するつもりであったが、英国市場を考慮して変更されている(英国ではファイバーグラス製タンクが禁止されている)。 デュアル・シートはタンデム部分に取り外し可能なカバーが装着され、また、900SDと同じ日本電装製のメーター及びスイッチ類、穴開け加工された4本ボルトのフロント・ディスク・ブレーキ・ローターを持つスピードライン製マグネシウム・ホイールが装着されていた。 フレームはレッドにペイントされ、外装のスタイルはサイド・カバーを除いてNCRレーサーのラインに従うとともに、レッド、ホワイト及びグリーンのカラーは、78年のヘイルウッドのレーサーに倣っている(このカラーリングは、ヘイルウッドのメイン・スポンサーであったカストロールのカラーである)。

78年のSMCドゥカティはNCR製市販レーサーがベースであり、MHRとは似て非なるものであったが、MHRは世界中で爆発的なセールスを記録し、ドゥカティ社のフラッグシップ・モデルとして製造され続けた。 900MHRの総製造台数は、6058台である。

・年式毎の特徴・
共通仕様

 ・フレーム等
900MHRのカラーリングは、78年のマン島フォーミュラ・ワン・レーサーに倣ったもので、レッド、グリーン及びホワイトに塗り分けられている。 タンクの容量は、インナータンク仕様であった79年式を除き、全て24Lであり、形状及びカラーリングもほぼ同様である。

900SSとは異なり、フロント・カウルは、ステアリング・ヘッド・リテーニング・ナットにサークリップで取り付けられた、アルミ製のアッパー・クロス・ブレースを持っており、このため、フリクション式ステアリング・ダンパーは装着できない。 カウルの内側はレッドにペイントされるとともに、通常のステアリング・ヘッド・ブラケット及び左右2つのエクストラ・フレーム・サポートによって取り付けられていた。

グランド・クリアランスを向上し、カウルと地面の間隔を広げるために、マルゾッキ製リア・サスペンションは900SSより20mm長く、330mmとされ、これによりシート高は800mmとなるとともに、長いリア・サスペンションを装着するため、長いセンタースタンドが取り付けられている。 また、数年間に渡り「使用しづらい」位置にあったグリス・ニップルは、ようやくスイングアーム下の中央に移動され、整備性が向上されている。
 ・エンジン等
MHRでは初めて、公式のパーツ・リストにオプションとして、インレット42mm及びエキゾースト38mm、並びにインレット44mm及びエキゾースト40mmの、2つのオーバーサイズ・バルブが掲載された。 なお、オーバーサイズのバルブ・シートは準備されていない。

ビッグ・エンド・ベアリングは、38mmのクランク・ピン上に3mmのケージ・ニードル・ローラーであり、コンロッドは145mmの鍛造タイプである。 900SSと同じく、ビッグ・エンド・アイ及び20mmのスモール・エンドの周囲には、2重の強化リブが設けられていた。
 ・電装等
全てのMHRには日本電装製のメーターが使用され、スピード・メーターが左、タコメーターが右に取り付けられている。
・主要諸元・
フレーム形式DM860SS
900001〜900747
エンジン形式DM860
088937〜091530
ボア×ストローク86×74.4mm
総排気量864cc
圧縮比9.5:1
最大出力72PS/7900rpm
タイヤサイズ 前輪100/90V18
後輪110/90V18
ブレーキ フロント280mmダブルディスク
リア280mmディスク
ホイールベース1499mm
シート高800mm
全長2220mm
全幅699mm
重量205kg
ギア比 一次32/70
二次15/36
タンク容量18L
24L
キャブレターデロルトPHM40AD/AS
総製造台数647
(79年式200、80年式547)
79〜80年式

 ・フレーム等
ドゥカティ社は、900MHRの最初のシリーズを200台製造し、そのほとんどが英国で販売されるとともに、全ての79年式MHRには「証明書」が添付されていた。

フレーム型式は「DM860SS」が指定され、MHRのフレームは、初期の900SDと同じ番号シーケンスである「900001」から番号が開始されている。 このため、79年式900MHRと77年式900SDのフレーム番号は全く同じであるが、フレームの形状自体は全く別物である。 なお、フレーム番号の混乱を避けるため、MHRの量産が開始されるとすぐに、900SDには新しいフレーム番号が指定されている。

フレーム・ホモロゲーション番号は、「DM860SS」フレームに通常指定されている「DGM 13715 OM」であるが、79年式MHRには、サイレンサー・ホモロゲーション・プレートが装着されていない。 900SSのフレームと同様に、フレーム番号は左側のロア・エンジン・マウントの間に刻印されている。 この年式のMHRのフレームは、900SSから小変更を受けているのみであるが、サイド・カバー・マウント・ラグがないことで区別できる。 なお、MHRでは使用されていないにも関わらず、エア・クリーナー・ボックス及び左側タンク下のチョーク・レバー用のマウント・ラグは900SSのフレームから変更されていない。

900SSから最も大きく変更されているのは外装である。 ファイバーグラス製のレーシング・スタイル・フル・カウルの形状は、79年のフォーミュラ・ワン・レーサーではなく、より成功した78年のレーサーに倣ったものが取り付けられている。 これは上部がレッド、下部がグリーンであり、ホワイトのラインで分割されていた。 フロントのターン・シグナル・インジケーターは、カウルと面一で装着され、ヘッドランプの回りには通常のプラスチック製ガスケット・シールが取り付けられている。 ほとんどのカウルには、スクリーンとクロムメッキされたM6×16リテーニング・スクリューの間に、小さな「Mike Hailwood Replica」デカールが貼られているが、一部には貼られていないものも存在する。 一体成型のカウルは、クロムメッキされた10本のM6×16スクリューで固定されており、カウルの脱着には手間がかかるとともに、オイル・レベルの点検のような基本的な整備作業でさえ、カウルを取り外す必要があった。

80年式では、フル・カウルはワンピースのままであったが、全てに小さな「Mike Hailwood Replica」デカールが貼られるとともに、両サイドにホワイトの大きな「DUCATI」デカールが採用されている。 カウルを留めるための、10本のM6×18mmボルトのブラケットの形状が変更されたが、脱着は以前と同様に容易ではなかった。 また、79年式と同様に、サイドカバーは取り付けられていない。

79年式900MHRのタンクは当初、900SSのスチール製タンクの上に、ファイバーグラス製カバーを被せた仕様であり、これはファイバーグラス製タンクが禁止されている英国の規制に対応するほか、公式発表に間に合わせるためであると言われている(製造台数は極少数である)。 ファイバーグラス製タンク・カバーの形状は、NCRレーサーに倣っている。 鍵のない燃料タンク・キャップと、タンク・カバーの開口部の周囲に取り付けられたプラスチック製ガスケットの間の隙間は非常に狭い。 タンク・カバーのデザインは後のMHRと同様であるが、79年式ではファイバーグラス製タンク・カバーに貼られた「DUCATI」デカールが、プリ・プロダクション・モデルである73年式750SSと同じく、タンク・カバーの非常に高い位置に貼られていた。 なお、ペイントは通常のアクリル・ラッカーである。 また、パイオリ製燃料タップは、最終型の900SD及び79年式750SSと同様である。

79年初期のMHR以降、この年式のタンクは、以前の900SSのタンクにファイバーグラス製カバーを取り付けたものから、新しく24L容量のスチール製タンクに変更された。 なお、ファイバーグラス製タンクを持つプロトタイプは、広報目的で80年にも製造されたが、量産には移されなかった。 白い「DUCATI」デカールは、貼付位置が下に移動されるとともに、右側のパイオリ製燃料タップは新しいものが採用されたが、見た目は以前と同じである。

79年式のシート及びテール・ユニットの形状も、NCRレーサーに倣っていた。 サイド・カバーはなく、右側からはバッテリー及びレギュレーターが、左側からは40mmデロルト製キャブレターが完全に目視できる。 ファイバーグラス製シート及びテール・ユニットは、このモデル独自のものである。 ファイバーグラス製リア・シート・カバーに装着されたシングル・シートが標準であり、デュアル・シートはオプションであった。 これらのシート・パッドの組み立ては「粗悪」であり、アフターマーケットの製品に見える。 79年式MHRは、シングル・シートが標準であるが、タンデム・ステップも装着されている。

80年式MHRでは、新しいタンクの採用に伴い、ファイバーグラス製シートベースがツールボックスのアクセスがよいものに変更されるとともに、デュアル・シートの品質が向上されている。 新しいシートは、シート・ストッパーを持つファイバーグラス製カバーを取り付けることにより、容易にシングル・シートに変更できた。

マルゾッキ製のフロント・フォークは、機能上、900SSと同じものである。 フォーク・チューブは38×580mmであり、唯一の違いはボトム・ケースがペイントではなく、ポリッシュされたアルミ製であったことである。 フォーク・レグ下部には、通常のレッドの「Marzocchi」デカールが貼られていた。 他のモデルと同様、トリプル・クランプはブラックにペイントされている。 また、リア・サスペンションは、ブラックのスプリングを持ち、ボトムに小さな「Marzocchi」デカールが貼られていた。

79年式900SSと同様、79年式MHRにもゴールドにペイントされたスピードライン製マグネシウム・ホイールが装着されたが、いくつかのMHRには77年式900SDと同じ、カンパニョーロ製のものが装着されている。 同年式の900SD及び900SSは、スピードライン製が標準であったので、スピードライン製ホイールを装着しているMHRの方が、カンパニョーロ製のものよりも多い。 どちらのホイールもサイズは同じであり、フロント2.15×18、リア2.50×18である。

80年式MHRの多くは、カンパニョーロ製の5スポーク・マグネシウム・ホイールを持っているが、後に6スポークのFPS製アルミ・ホイールに変更された。 900SSとは異なり、MHRには4つのディスク穴を持つFPS製ホイールは取り付けられていない。 同時期の900SD及び900SSと同じく、FPSホイールのスポークはゴールドにペイントされていたが、リムはアルミのポリッシュ仕様であった。 また、フロント・フォークのレグは、900SSと同様にブラックにペイントされている。

ブレンボ製マスター・シリンダーは900SSと同じ仕様であるが、前後ブレーキ・キャリパーは、レーシング・スタイルのブレンボ製「ゴールドライン」08キャリパーが採用されている。 以前のものとは異なり、これらのブリード・スクリューは1つのみであり、プラスチック製のパッド・カバーは装着されていない。 フロントの280mm鋳鉄ディスクは穴開け加工されたものであり、4つのボルト穴を持っている。 キャスト・ホイールが採用されているので、リア・ディスクもフロントと同じものであり、これに対応して大きなリア・キャリパー・ブラケットが取り付けられている。 900SSからのその他の変更点は、リア・ブレーキ・ライト・プレッシャー・スイッチが、マスター・シリンダーからキャリパーに移動されたことである(900SSも、後にこの仕様となる)。

チェーンガードは、900SSに採用されていた通常のステンレス・スチール製である。 ハンドル・グリップも900SSと同じくベルリッキ製であるが、ハンドルは、広いタンクを避けるため、2本のM6×35ファスナーで900SSとは異なる角度に取り付けられている。 フット・レバーとスチール製ステップは、78〜79年式900SSと同様である。

マイク・ヘイルウッドは、81年3月に交通事故で亡くなったが、その前にドゥカティ社はMHRの改良版を発表した。 ヘイルウッドの死にも関わらず、ドゥカティ社はMHRの製造継続を決定し、ドゥカティ社のフラッグシップとして残っていくことになった。
 ・エンジン等
エンジン番号は79年式900SSから連番とされ、同じエンジン番号シーケンスが使用されている。

79年までに860ccエンジン全体に行われた改良が、MHRにも施されている。 このため、クランクシャフト、メタル製のオルタネーター及びクラッチ・カバーのリング・ナットは、改良後のパーツが使用されるとともに、クランクケース後方のギア・セレクター・プランジャー、カウンターシャフト・ナット及びシール、並びにオルタネーター・ローター及びステーターも変更されている。

MHRではさらに、エキゾースト・ヘッダー・パイプとマフラー・スペーサーの形状が変更されている。 エキゾースト・ヘッダーはシングル・ウォール構造であったが、左側のパイプは、カウルの形状に合わせて、エンジン側に寄せられた。 これにより、オイル・レベルの点検は難しくなったが、グランド・クリアランスはかなり改善された。 なお、900SSにも、このヘッダー・パイプを取り付けることができる。 79年式MHRは、コンチ製マフラーが標準であった。

この年式のMHRには、初期のデロルト製PHM40AD/ASキャブレターが装着され、これにはチョーク機構は備わっていたが、ティクラー・ボタンのみが取り付けられている。 エア・クリーナーは装着されていないので、エンジン・ブリーザーはブラックの255mmプラスチック製パイプを介して、シート下のプラスチック製キャッチ・タンクに接続され、そこから500mmのパイプを通じてタンク下のブリーザー・バルブに排出されている。

この年式のMHRには、15歯のカウンターシャフト・スプロケット及び36歯のリア・スプロケットのみが装着されていた。
 ・電装等
メーター及びスイッチ類は、900SSDに採用されたものと同じである。 トップ・トリプル・クランプにハンドルをクランプする必要がなかったので、コンソールは900SSDと同様である。 MHRにはサイド・スタンドは取り付けられていないが、コンソールにはレッドのスタンド・ワーニング・ライトが装着されたままであった。

左側スイッチは、900SD及び900SSDと同様の日本電装製であり、右側には79年式900SSに採用された、ベルリッキ製のブラック・プラスチックのツイン・ケーブル・スロットルが取り付けられている(ワイアリングは異なる)。 なお、この年式のMHRにはエレクトリック・スタートやエンジン・キル・スイッチは設けられていない。

大きなCEV製テールライト、リア・インジケーター及び55/60Wハロゲン・ランプは、900SSと同じものであり、他の電装品(ヒューズ・ボックス、イグニッション、リレー及びホーン)は、900SSDと共用である。
・主要諸元・
フレーム形式DM900R
900001〜903049
エンジン形式DM860(D)
091531〜096292
ボア×ストローク86×74.4mm
総排気量864cc
圧縮比9.3:1
最大出力72PS/7900rpm
タイヤサイズ 前輪3.50V18
後輪4.25/85V18
ブレーキ フロント280mmダブルディスク
リア280mmディスク
ホイールベース1499mm
シート高800mm
全長2250mm
全幅699mm
重量210kg
ギア比 一次32/70
二次15/33
タンク容量24L
キャブレターデロルトPHM40BD/BS
総製造台数3049
(81年式1500、82年式1549)
81〜82年式

 ・フレーム等
この年式では、前年式から本質的には変更はないが、やや「おとなしい」仕様とされている。 これらの変更のいくつかは、実用的な見地からは歓迎されたが、例えばコンチ製マフラーが標準装備でなくなったこと等は、熱狂的なドゥカティストから惜しまれた。

この年式のフレーム番号は、新しく「DM900R 900001」からシーケンスが開始されている。 これらのフレームは、見た目には以前のものとほぼ同様であるが、新しいフレーム・ホモロゲーション番号「DGM 20235 OM」が指定されている。 82年式MHRは、フレーム番号及びシーケンスは81年式と同じであるが、フレーム・ホモロゲーション番号が変更になった(「DGM 50235 OM」)。 この年式のフレームには、サイド・カバーを取り付けるためのスペシャル・ナットを受けるラグが設けられるとともに、センタースタンドをかける際の補助として使用される、折り畳み式のリフティング・レバーが装着されていた。

スチール製タンク及びファイバーグラス製シートベースは、80年式と同様であるが、新しく、クロムメッキされた2本のM8×20スクリューで固定されるサイド・カバーが装着された。 パンタの外装の多くがABS製になったことに伴い、これらのサイド・カバーもABS製であり、フロント・アッパー・カウルと同じ「Mike Hailwood Replica」デカールが貼られていた。 しかし、シートベース及びフロント・カウルは、900SSと同じくファイバーグラス製である。 タンク・キャップには鍵が設けられたが、これはイグニッション及びステアリング・ロック・キーとは異なるキーであった。 82年にはパンタ、900S2及び900SSと同様、フロント・マッドガードが大きな角張った形状となった(カラーはレッドのみ)。

最も大きな変更は、フロント・カウルのデザインである。 カウルは2分割され、アッパー・カウルには以前と同様の面一のターン・インジケータが装着されるとともに、スクリーンやブラケット等の多くのパーツは、80年式のものと互換性がある。 ツー・ピース・カウルは、上部に小さな「Mike Hailwood Replica」デカールが貼られるとともに、サイドのホワイトのラインの下には、大きなホワイトの「DUCATI」デカールが貼られている。 カウルの装着には2つのタイプのスクリューが使用され、8本のクロムメッキされたラージヘッドM6×18mmスクリューは、カウルをフロント及びサイド・ブラケットで固定し、8本のスモールヘッドM6×16mmスクリューは、上下カウルを接続するのに使用されている。

81年式MHRのマルゾッキ製フロント・フォークは前年式と同様に、ブラックにペイントされたフォーク・レグを持ち、イエローの「Marzocchi」デカールが左側レグの下方に貼られていたが、82年式では新しいマッドガードを取り付けるため、ファスナーの形状が変更されると共に、トップ・トリプル・クランプにはマルゾッキの「M」の刻印が入れられている。 また、フォーク・チューブのトップにあるスレッデッド・フォーク・スプリング・リテナーは、取り外しに30mmのレンチを必要とするタイプに変更された。 82年末には再度変更され、内部パーツが900S2と共用されている新しいマルゾッキ製フォークが採用されている。 これらのフォーク・チューブは少し長く(590mm)なるとともに、ダンパー・ロッドは短く(221mm)なり、このためフォーク・トラベルは140mmから130mmに減少し、M12×35に代わり、やや長いM12×40のダンパー・ロッド・リテーニング・スクリューが取り付けられている。 このフォークを採用した900SSと同様、ブレーキ・キャリパーは、フォーク・レグの前方に取り付けられている。

81年式MHRは、以前と同様の330mmマルゾッキ製リア・サスペンションを採用していたが、82年式では、フロント・フォークの変更に伴い、トラベルが80mmとなっている(以前は90mm)。 これにより、グランド・クリアランスがやや向上されている。

81年には、ホイール及びブレーキ・ディスクの完全な規格化が行われている。 ゴールドにペイントされたFPS製6スポーク・アルミ・ホイールには、他のモデルと同様にディスク・キャリアがブラックにペイントされた、6穴仕様の穴開け加工された280mm鋳鉄ディスクが取り付けられている。 なお、キャスト・ホイールの例に倣い、ディスクは前後共通である。 フレーム番号「900504」以降、FPS製ホイールには、アセンブリが緩むのを防ぐため、ホイールとキャッシュ・ドライブの間に2つの8mmドゥエルが装着されている。

フレーム番号「901300」までのMHRは、前年式同様にブレンボ製「ゴールドライン」レーシング・キャリパーが装着されているが、以降は通常のブラックのタイプに変更されている。 これらのキャリパーは、1つのブリード・スクリュー及びパッド・カバーを持ち、全ての900ccモデルを通じて標準化されている。

900SSと同じように、クラッチ及びブレーキ・レバーは、新しいタイプのクラッチ・アジャスターを持つブラックのものである。 また、チェーンガードはステンレス・スチール製であったが、82年にはレッドにペイントされたスチール製のものに変更された。
 ・エンジン等
エンジン番号シーケンスは以前と同様であり、900SSと共有されるとともに、他の860ccモデルのエンジンと同様、いくつかのMHRには、右側クランクケースの「DM860」の上に「D」の刻印がある。

81年までに行われたエンジン仕様の変更の全てがMHRに反映されている。 これには、エンジン番号「090915」からのターミナル・ブロック及びトランスデューサーの改良、「091267」からのクラッチ・ドラムの変更及び「091022」からのバルブ・ガイド・シールの改良が含まれている。 エンジン番号「092220」からは、イグニッション・ピックアップ・プレートの変更も行われ、この時点で、点火進角は僅かに変更されるとともに、オルタネーターも900SSと同じく、初期の860ccモデルのステーターに、500SLのローターを組み合わせたものに変更された。

81年末には、更に多くの変更が行われている。 エンジン番号「092920」から、6ドッグ・タイプのギアボックスが3ドッグ・タイプに変更となり、プライマリー・ドライブ・ギア・セットも新しくなった。 また、エンジン番号「094150」からは、バルブ・シートは以前のブロンズ製のものから、鋳鉄製のものに変更されている。 概ね同じ時期、シリンダー・ヘッド・ナット及びワッシャーも、M10×10mmのヘキサゴン・ナット及び10.5mmのフラット・ワッシャーに変更されている。 更に、騒音規制の強化に対応するため、33歯のリア・スプロケットと15歯のカウンターシャフト・スプロケットを使用することで、ファイナル・ドライブ・ギア比が高められた。

この年式では、以前と同じくデロルト製PHM40mmキャブレターが装着されていたが、これらはチョーク仕様となるとともに、型式が「BD/BS」となった。 このキャブレターは、排気規制を満たすため、ジェッティングがわずかに変更されている。 ホワイトのプラスチック製チョーク・レバーは、ステアリング・ヘッド・カウル・ブラケットに取り付けられていた。 82年式のいくつかのMHRには900SS用のエア・クリーナーが装着されているが、大部分はベルマウス仕様である。 これは、短いインレット長が有利であるというレースでの慣例に倣い、新しいタイプのベルマウスである。 当初、これらは短いプラスチック製のものであり、ホース・クランプで取り付けられていたが、すぐに形状が同じであるアルミ製のねじ込み式のものに変更された。 ベルマウス仕様のキャブレターを持つ、82年式MHRには、クランクケースのガスを還元するシステムは設けられておらず、ブラックの225mmチューブがフラッパー・バルブに取り付けられ、トップ・フレーム・チューブまたはフロント・エア・フィルターのどちらかに接続されていた。

この年式のMHRには、前年式とは異なり、サイレンサー・ホモロゲーション・プレートが取り付けられている。 900SSと同様に、これらはフレームのリア・ブレーキ・レバーの傍に取り付けられ、新しく「DM900R E3 9R−37617」が指定されている。
 ・電装等
ベッリ製のホーンがボッシュ製に変更になったほかは、前年式と同様である。
・主要諸元・
フレーム形式DM900R
903050〜904719
DM900R1
905002〜906483
エンジン形式DM860(D)
096293〜097277
907277〜909138
ボア×ストローク86×74.4mm
総排気量864cc
圧縮比9.3:1
最大出力72PS/7800rpm
タイヤサイズ 前輪100/90V18
後輪120/90V18
ブレーキ フロント280mmダブルディスク
リア280mmディスク
ホイールベース1499mm
シート高800mm
全長2220mm
全幅699mm
重量221kg
ギア比 一次32/70
二次15/33
タンク容量24L
キャブレターデロルトPHM40BD/BS
総製造台数2262
(83年式約1700、84年式約500)
83〜84年式

 ・フレーム等
「DM900R」のフレーム形式を持つMHRは83年初期まで製造され、これらの仕様は前年式と同じである。 数ヶ月後、新しいフレームが登場し、フレーム及び走行器材類は完全に変更が行われ、新しいフレーム等は900SSや前年式までのMHRではなく、900S2と共有化されている。

新しいフレームは、以前のものとは僅かしか共用されておらず、新しく「DM900R1」が指定されたが、フレーム番号シーケンスは、前年式から継続されている。 なお、改良されたエレクトリック・スタート・モデルに対して、フレーム番号は「905002」から再指定されており、キックスタート(及び、少数のスクエア・ケースのエレクトリック・スタート)のMHRのフレーム番号が「904719」で終了しているため、フレーム番号に「空き」が生じている(フレーム番号「905001」はプリ・プロダクションのショウ・モデルであり、最終的な市販モデルとは異なっていた)。 新しいフレームには、フレーム・ホモロゲーション番号「DGM 51147 OM」が指定されている。

フレームは、900SSから派生したものから大きく変更され、全体的にかなり高く、重く、且つ大きくなっている。 グランド・クリアランスは拡大されたが、これらのMHRは前年式よりも操縦性がよくなく、これはフレームに大きく起因している。 フロント・ダウンチューブは湾曲しておらず真っ直ぐであったが、エンジン・ボルト・アタッチメントは860GT900SDと同様にフラットであるとともに、リア・ダウンチューブは、大きなユアサ製12V19Ahバッテリーを搭載するため、大きく湾曲されていた。 このリア・ダウンチューブの設計は不良であり、MHR(及び900S2)はステアリングに振動が発生して安定しない傾向があり、特にライダーがハンドルから手を離した場合に顕著であった。 左側にはセンタースタンドをかける際の補助となる折り畳み式のハンドルは装着されず、代わりに左側マフラー・ブラケットがその役割を果たせるよう形状が変更されている。 センタースタンドは、860GT900SDと共用されたが、リターン・スプリングは2本である。

カウルは完全に変更され、狭く、且つ高くなるとともに、エンジンに簡単にアクセスするために、ホワイトのストライプに直行して水平に分割された。 グランド・クリアランスは向上されたが、バンクさせるとロア・カウルは比較的容易に接地した。 カウルの変更に伴いデカールも変更され、ヘッドライトの上にホワイトの「DESMO」、フロント・インジケータのちょうど裏に小さな「Mike Hailwood Replica」デカールが貼られるとともに、フロント・インジケータは面一の仕様ではなくなった。 クロムメッキされた6本のラージ・ヘッドM6×18mmスクリューによってカウルは固定され、上部は2本の小さなM5×16mmスクリューで、アルミ製クロス・ブレースに取り付けられるとともに、カウルの上下は、クロムメッキされた8本のM6×16mmスクリューで接続されている。 これらのスクリューには全て、ホワイトのナイロン製ワッシャーが使用されている。 オイル・レベルを簡単に点検するため、カウル右側には点検窓が開けられている。

タンクの形状は以前と同様であるが、右側の燃料タップは、フロントのインレット・マニホールドに接続された負圧式となった。 しかし、この負圧式燃料タップを「信頼しないかのように」、左側燃料タップは通常の手動式であり、事実、負圧式タップはよく燃料漏れを起こした。 燃料ホースは、長い間使用されていたグリーンのプラスチック製に代わり、ブラックのラバー製のものとなった。 タンクのデカールには変更はなく、「Made in Italy」デカールは貼られていない。

この年式のMHRは、4本の水平のスロットが入った、新しいサイド・カバーを採用している。 新しいサイド・カバーはABS製であり、クロムメッキされた3本のM6×20mmスクリューで取り付けられ、スロットの下にはホワイトの「900」デカールが貼られている。 レッドのシート・ユニット(及びシングル・シート・カバー)には、新しいグリーンのデカール、後方にはホワイトの「DESMO」デカールが貼られた。 前年式までと互換性があるのは、シングル・シート・カバー及びシート・パッドのみである。

前年式までのMHR、更には全てのドゥカティからの大きな変更は、ペイントの品質が向上されたことである。 ペイントはエナメルの焼き付け塗装となり、最終的にデカールの上にクリア・コーティングが施されていた。 このフィニッシュは、非常に長持ちし、更に色あせの傾向が少なかった。

この年式のMHRでは、新しいフロント・フォーク、リア・サスペンション、ホイール及びブレーキが採用されている。 これらの改良の多くは「ファッション的な傾向」に従ったものであるが、ホイール及びサスペンションについては本当の意味での改良であった。

ブラックにペイントされたマルゾッキ製フォークは、前方ではなく後方にブレンボ製キャリパーをマウントしており、アクスル・シャフトは右から左に通っている。 84年式900MHRのフォーク・レグは、全てブラックにペイントされていたが、初期の「リンクル・フィニッシュ」ではなく、つや消しブラックであった。 最初の750SSのように、フォーク・レグの前方にはM6×7mmのフォーク・オイル・ドレイン・プラグがあり、左側レグには小さなイエローの「Marzocchi」デカールが貼られていた。 38mmのフォーク・チューブの長さは590mmであり、221mmの油圧ブレーキ・ロッドを持っている。 フォーク・レグのダスト・シールは、フォーク・チューブの抵抗が少ないインターナル・ラバー・タイプであるが、パーツ・リストには掲載されていない。 最終型の84年式MHRのフロント・フォークは、初期のミッレと共用であり、これらはフォーク・トップにエア・キャップを持っていた(900MHRのパーツ・リストには未掲載)。 また、フォークのオイル・シールは、2本から1本に変更された。

リア・サスペンションは、新しくブラックのボディー及びスプリングを持つ、リザーバー・タンク付きのマルゾッキ製が装着されている。 330mmのショックは上下逆に取り付けられ、リザーバー・タンクは前方を向いており、84年式では、リザーバー・タンクのベースにホワイトの「Marzocchi」デカールが貼られていた。

また、この年式のMHRには、新しいホイールが採用されている。 ゴールドでペイントされたオスカム製アルミ・ホイールは、以前のFPS製ホイールとサイズは同じ(F:MT2.15×18インチ、R:2.50×18インチ)であったが、新しいリムにはチューブレス・タイヤが装着されていた。

ブレンボ製ブレーキは、本質的に変更はないが、新しいラバー製ブレーキ・ラインは、リア・マウントされたフロント・キャリパーに直接取り付けられ、メタル製パイプはなくなった。 900S2と同じく、リア・ブレーキ・マスター・シリンダーにはリモート・フルード・リザーバーが採用され、右サイド・カバーの下に装着されている。 これはブレーキ・レバー上に直接マスター・シリンダーをマウントすることができ、優れたシステムであった。 プレッシャー・スイッチは、ブレーキ・キャリパー・アタッチメント上に取り付けられている。

フロント・マッドガードはブラックのABS製であったが、形状は以前と同じである。 リア・マッドガードは2ピース構造であり、前方がブラックのプラスチック製、後方がブラックのメタル製であった。 83〜84年式MHRには、新しいラバー付きの折り畳み式ステップ、アルミ製レバー(900S2と同様)及び、新しいタンデム・ステップが採用されており、これらの変更は、72年の750GT以来、初めてである。 ギアシフト・レバーは、キックスタート及びエレクトリック・スタート・モデルで異なっているが、これらは脱着可能なエンド・ペグを持つ合金製であった。 ギアシフト・レバーは、一方がボール・ジョイント、もう一方がU字ピンでエンジンに取り付けられている。 84年には、ギアシフト及びブレーキ・ペダルのラバーは、ステップのラバーとマッチする新しいパターンとなった。 また、チェーンガードはブラックであり、750Sと同じである。

この年式の少数のMHRは、新しいフレームにキック・スタートのスクエア・ケース・エンジンを搭載したハイブリッドであり、この仕様は83−84年式のパーツ・リストには掲載されていない。 更に83年式MHRのいくつかには、エレクトリック・スタートのスクエア・ケース・エンジンを搭載しているものも存在する。 この仕様は極少数のみ製造され、ほとんどのエレクトリック・スタートのMHRは、83年9月に登場した新しいエンジンを搭載している。

スクエア・ケース・エンジンを搭載した少数のMHRには、クロムメッキされたベルリッキ製フォワード・オフセット・クリップオン・ハンドルが装着されているが、新しいエンジンのMHRのハンドルはブラックである。 ブラックのハンドルは、2つの8mmボルトを介して2面で調整可能であり、以前のタイプよりも広範囲に調整することができた。 また、ブレーキ及びクラッチ・レバーはブラックであったが、フレーム番号「905002」以降はドッグレグ・タイプが採用されている。

ミッレの陰に隠れているが、最終的な900は、いくつかの点でより洗練されたモデルであった。 エンジンの最大出力こそ大きくないが、中間域のトルクが僅かに増大され、スムースさ及び扱い易さが向上されている。 エンジンに合ったフレーム等が与えられなかったことが残念であると言える。
 ・エンジン等
この年式のキックスタート・エンジンは、キック・スタートの900S2と共用化されている。 83年には780台、84年には25台のキックスタート・モデルが製造された。 エンジン番号「095742」から、ギアシフト・ドラム及びスペシャル・ワッシャーが変更され、83年前半(エンジン番号「096314」から)には、キックスタート・モデルへの最後の変更として、オイル・レベル確認窓を持つ新しいクランクケースの採用、ギア・セレクターの変更、ロア・タイミング・ギア・シャフトの改良及びねじ込み式オイル・フィルターの採用が行われている。 キック・スタートのMHRは製造台数が少なく、変更内容は900S2と同様である。

83年9月には、900MHRのエンジンは基本的な再設計を受けている。 これらの最終型900MHRは、全ての860ccエンジンで最もスムースに開発されている。 エンジンのスムースさは初期の750ccモデルに匹敵し、生産及び品質は、1年前よりもはるかに一貫していた。 当時、ドゥカティ社はまだ、VMグループとして政府の管理下にあり、83年にはカジバ社にパンタ・エンジンを供給するための取引が行われていた。 これは従業員の士気に対してよい影響を与え、バイクの品質は劇的に向上し、また難しい時期に製造されたにも関わらず、この年式の900MHRは全般的に、最も一貫した仕様となっている。 83年末には、ほとんど全てのMHRは、新しいエレクトリック・スタート・エンジンを搭載した。 新しいエンジンは、エレクトリック・スタートの900S2と同様、77年に900SDで始められたエレクトリック・スタート・デスモドローミック・エンジンのエンジン番号シーケンスが使用されている。 デスモドローミック・シリンダー・ヘッドは900S2と同様になり、バルブ・シート及びバルブ・ガイドは両方とも鋳鉄製で、ガイドはインレット及びエキゾーストで同じものとなったほか、44種類のアジャスター(5.00mmから9.60mmまでの範囲を0.1mm毎にカバー)が指定され、クロージング・バルブの調整範囲が拡大された。 それ以外の部分に関しても、多くの重要な変更が行われている。

クランクケースは再度新しくなり、最後のスクエア・ケース・エンジンと同様に、右側クランクケースにはオイル・レベル確認窓が取り込まれ、シリンダーの間にねじ込み式オイル・フィルターが装着されていた。 また、500及び600SLパンタに倣い、右側クランクケース下部に、プラスチック製ゲージ・ストレーナを持つ、マグネット付きのオイル・ドレイン・プラグが取り付けられている。 クランクケースの変更に伴い、シリンダーの周りのクランクケース・ボルトのサイズが減少し、前のM10×70、M10×90の代わりに、2本のM8×55mmとなった。 小さなボルトは、このクランクケースが後のミッレの大きなシリンダーのために設計されたことを示している。

エンジン内部では、セカンダリ・ギア・シャフトの潤滑に小変更が行われている。 セカンダリ・ギア・ベアリングは、セカンダリ・シャフト上のプライマリ・ドライブから転送されたオイルで潤滑されるようになった。

左右のエンジン・ケースの形状は、ジウジアーロの「角張った」スクエア・ケースから、完全に再設計された。 初期のラウンド・ケースほど造形的な魅力はないが、左側サイド・カバーはエレクトリック・スタートと統合され、右側のオルタネータ・カバーにはブラックのプラスチック製オイル・フィラー・キャップが取り付けられるとともに、点火タイミングを調整するため、取り外し可能なプレートが装着されている。 新しいクラッチ・カバーは2つの部品で構成されているため、これはクラッチ側から動かさなければならなかった。 この新しいカバーは、最後のベベル・ギア・エンジンであるミッレまで採用されている。

ピストン及びシリンダーには大きな変更が行われている。 20×59mmのリスト・ピン及び86mmのボア・サイズには変更はなかったが、シリンダーは鋳鉄スリーブがなくなり、500及び600SLパンタに倣ってシリンダーとライナーは一体成型となり、内壁にはニカジル・メッキが施された。 これらはボーリングすることはできないが、鋳鉄よりも摩耗は少なかった。 シリンダーのサイズは「A=86.000−86.010」、「B=86.010−86.020」、「C=86.020−86.030」の3種類となり、それに組み合わせられるピストンは「A=85.970−85.980」、「B=85.980−85.990」及び「C=85.990−86.000」である。 シリンダー及びピストンは、セットで交換する必要があり、シリンダー・ベース・ガスケットも以前の860エンジンで使用されたものとは異なるものが必要である。

プライマリ・ドライブ及びクラッチは、完全に変更されている。 オルタネータ・カバーの穴を通じてイグニッション・タイミング・ホイールにアクセスできるよう、右側シャフトにスロットが設けられている、新しいクランクシャフトが採用されるとともに、ヘリカル・ギアによる一次減速比は32/70で変更はないが、ギア自体も新しくなっている。 32歯のクランクシャフト・ギアは、軽量なフライホイールに取り付けられており、フライホイールは円形ではなかったが、両面が機械加工でフラットにされていた。 70歯のクラッチ・ギアは、メインシャフト上に取り付けられ、イグニッション・ピックアップ及びエレクトリック・スタートを含むアウター・ケース・カバー内に位置している。

クラッチは乾式となり、ポリッシュされたアルミ製のケース・カバーに覆われるとともに、これに伴い全てのパーツが新しくされている。 クラッチ・プレートには、パンタと同様に、6枚のメタル製ドリブン・プレート及び7枚のフリクション面を持つドライブ・プレートが採用されている。 アウター・プレッシャー・プレートはメタル製の新しいものとなり、クラッチ・スプリングも42mmとなった。 クラッチの駆動がケーブルから油圧になったので、強化されたスプリングは操作の支障にはならないが、新しい乾式クラッチは「滑り」が発生する問題があり、この問題に対応するため、ドゥカティ社は83年11月にプレッシャー・プレート下の外側に、メタル製ドリブン・ディスクを追加することに関する技術広報を発行した。 これにより、ドリブン・プレートは7枚となったが、オリジナルの装備とはなっていない。 メインシャフトを貫通するクラッチ・アクチュエーション・ロッドは以前と同様であるが、プレッシャー・プレート・エンドの5/16×5/16インチのローラーは、6×6mmに変更されている。

ギアボックスは、1速及び2速ギアを持つメインシャフト、及び新しい30歯のドライビング・ギアを除いて、82年後期型エンジンに採用された3ドッグ・タイプである。 メインシャフトは、新しいインナー・クラッチ・ドラムの位置決めを行うための異なるスプライン及び、クラッチ操作メカニズムをシールするための2つのインナーOリングを持っている。 カウンター・シャフトは15歯が標準であり、オプションとして16歯が準備されていたが、33歯のリア・スプロケットと組み合わせると、標準のギア比は非常に高かった。 これはMHRを、厳しい騒音規制に対応させるためであったが、新しいエンジンは、この高いギア比にも関わらず、驚くほどよく走った。 83年式900S2に合わせて、リア・スプロケット・リテーニング・ボルトはM8×40のアレン・ヘッドに変更された。

83年初期に採用された、ギア・セレクター・ドラム及びニュートラル・インジケータ・スイッチの変更は、このモデルにも採用されている。 ギア・セレクター・ドラムには、36.5×42×0.2mmのシムが入れられ、どちらかの側には0.5mmのスラスト・ワッシャーが取り付けられている。 また、新しいセレクター・シャフトが採用されているが、セレクター・メカニズム自体はクラッチ・ドラムの下に残されている。 エンジンの右側は再設計され、ポリッシュされたアルミ製のオルタネーター・カバー及びエンジン・スプロケット・カバーには、油圧クラッチのためのピストン及びシールが組み込まれているほか、84年にはオイルフィルター・リテーニング・プラグの長さが長くなった。

900SDと同じく、大きなバッテリーを避けるため、リア・キャブレターにもフロントと同じインレット・マニホールドが採用されているほか、負圧式燃料タップの採用に伴い、フロント・マニホールドに挿入されたM5×8mmエア・スクリューの代わりに右側燃料タップのバキューム・アタッチメントが取り付けられている。 デロルト製PHM40BD/BSキャブレターは以前と同じセッティングであり(135番のメイン・ジェットを除く)、レッドにペイントされた2つのスチール製エア・フィルター・ボックスを持っていた(レッドのエア・フィルター・ボックスは、後にブラックにペイントされた)。 エア・インテークは、ブラックの硬いプラスチック製である。 クランクケースのブリーザーは、シート下のブラックのプラスチック製ボックスに送られ、フロントのフィルター・ボックスに戻る。 これらのエア・フィルターは、非常に効率的であり、83〜84年式のMHRは、ベベル・ツイン・ドゥカティの中でも最も高性能なものの一つである。

エキゾースト・パイプも900S2と共用されている。 標準のサイレンチウム製マフラー及びオプションのコンチ製マフラーともに、新しいフレームに合わせるためブラケットの位置が変更されている。 この年式の全てのMHRには、右サイド・カバーの下にサイレンサー・ホモロゲーション・プレートが取り付けられているが、これには2種類あり、1つはサイレンチウム製マフラー(「E3 41R−0040039」)用、もう1つはコンチ製マフラー(「E3 13R−0440038」)用である。 いくつかの84年式900MHRには、マフラーが左側に1本出しであるコンチ製2in1エキゾースト・システムが取り付けられている(バッフルは脱着可能)が、このエキゾースト・システムは、パーツ・リスト未掲載である。

新しいエンジンは、基本的にミッレのために開発されており、その特徴の多くが900MHRにも取り入れられた。 83〜84年の900MHRは、ミッレが登場する前の「実験場」であったと言える。 74年のスクエア・ケース・エンジンの登場以来、83年のベベルギアVツインの再設計は、最も総合的なものであったが、経済的理由及びその時点の状況等から、以前のモデルのように長期間は製造されなかった。
 ・電装等
スクエア・ケース・エンジンのMHRは、900S2のメーター、ボッシュ製ヘッドライト及びインジケータを使用していた(900SDスタイルのインストルメント・パネルを含む)。 エンジン番号「096142」から、新しいオルタネータ・ローター(出力は200Wのまま)が採用され、これに伴いレギュレータも変更されている。 これはパンタで行われた改良と同様であり、これによりエンジン・ノイズを低減させている。 なお、キック・スタートのMHRには、ユアサ製12V−12Ahバッテリーが採用され続けている。

新しいエンジンのエレクトリック・スタート・モーター及びイグニッション・ピックアップは、2分割されたクラッチ・カバーにあるダイキャスト製のインナー・カバーに取り付けられている。 スターター・モーターは、重いマレリ製ではなくなり、はるかに小さく軽量な12V0.7kwの日本電装製ユニットとなった。 ミッレよりも低いギア比のチェーンがクランクシャフト・スターター・ギアを動かしていたので、900のスターター・モーターの方が合理的であった。 ボッシュ製イグニッション・ピックアップは、オイルに浸っているままであったが、個別のギャップを簡単に調整するため、プレート上にマウントされていた。 ボッシュ製イグニッション・モジュールは従来同様であるが、フロント・ダウンチューブに2つの新しいコイルが採用されている。

メーター類は、77年式900SDから採用されている日本電装製ユニットであったが、インストルメント・パネルには着色されたカバーを持つ新しい警告灯(Neutral:グリーン、Fuel:レッド、High Beam:ブルー、Lights:グリーン、Oil、Gen:レッド及び<=>:オレンジ)が取り付けられている。 また、新しいフレーム・マウントのヘッドライト・サポートには、キャレロ製170mm60WH4ヘッドライトが装着されるとともに、内部には以前の3Wの代わりに、4Wのパーキング・ライトが取り付けられている。 ヘッドライト・シェルはブラックであり、12V−18Aレギュレータは、ヘッドライト・ブラケットの下に取り付けられていた。

スイッチ類は、エレクトリック・スタート及びエンジン・ストップ・ボタンが組み込まれたプラスチック製ツイン・ケーブル・スロットルを持つ、通常の日本電装製であり、これは900S2のパーツである。 大きな角形のCEV製テール・ランプ及びリア・インジケータも、900S2と共用されているほか、フロント・インジケータは同時代の650SLパンタと同一のパーツである。






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